出典:るろうに剣心 -明治剣客浪漫譚-

十本刀に所属している連中はどいつもこいつも個性的ですが、ネットで大人気の宇水さんや津南式炸裂弾とのシナジーが注目される蝙也、まるっきりエヴァ初号機の不二といった面々に比べるとネタ的な話題性には劣り、あるいは安慈和尚に対して地味な印象を覚える人もいるかもしれません。しかし彼のキャラ造形は極めて完成度が高く、私的には作中最上位の思い入れがあります。

悪役に悲しい過去があるのは漫画のお約束とはいえ、安慈のそれは「加減しろ莫迦!」と言わざるを得ないほどに凄惨なもので、それこそ各章のラスボスを務めた志々雄や縁以上に悲劇的。そもそも自業自得なところもあった前述の両名に対して安慈にはなんの落ち度もないですし、周囲に迷惑をかけないよう自ら出ていこうとしていた矢先の事件というのがより悲惨さを引き上げています。子供達が焼死しているにも拘らず、仏像だけが綺麗に残っているというシチュエーションはあまりに皮肉。炭化した遺体のススを自らの目元に塗り付けるシーンの痛ましさには声を失いました。

そんな作中最悪レベルの悲劇を味わい憤怒の明王と化した安慈ですが、それでもなお生来の優しさを完全には失っていないところが人物像に深みを与えている部分です。奥義習得を目指す左之助に対し期限を過ぎたら殺すと凄みながらも再三「諦めれば命は助ける」と忠告したり、志々雄一派と敵対し京都大火を妨害した操ちゃんすら守ったりして、悪に加担しながらも根の善性を隠しきれてはいません。それでいて十本刀の最上位に位置する実力者というのもたまらないポイントで、二重を極めたと豪語する左之助に対し「極めるとはこういう事だ」と力の差を見せ付ける一幕は最高のカッコ良さ。志々雄すら「安慈相手に闘って無傷で済む奴などまず間違いなくいねェ」とリスペクトしていますし、左之助との激闘も説得による戦意喪失という決着ゆえに最後まで格落ちしませんでした。剣客漫画においては冷遇されても仕方ないポジションの徒手空拳キャラだというのに、あれほどまでに強者の風格を保ち続けていたのは圧巻だと思います。
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